1. プロローグ(債権者集会)

Prologue

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(プロローグ)

2018年3月15日 14時(福岡地方裁判所)第1回債権者集会

「この度は、私の不徳の至らなさでこのような事態となってしまい、本当に申し訳ありませんでした」

僕は声を強張らせながらそう言うと、深々と頭を下げた。

約10名の参加者であったが、いつも見慣れた顔ばかりであったので、申し訳なさと無念さで心が引き裂かれるような感覚となった。

担当の裁判官が、破産管財人である守口弁護士と、僕の破産を引き受けた代理人の牧原弁護士を紹介した後、法人破産の経緯ならびに個人破産の経緯が説明され、今後のスケジュールの説明があった。

僕は申し訳なさのため終始うなだれていたが、気になって顔を上げると債権者が容赦なく自分を凝視していることが分かり、再び首を垂らすことになった。

僕の頭の中には、事業を開始した13年前から現在に到るまでの苦労の人生が走馬灯のように過って(よぎって)、今日の日を迎えるに至った原因の最初の日を思い出した。

債権者集会から3年ほど前の2014年12月某日

「製造業でベンチャーやってる企業を初めて知った。これから2年間、君を支援させて欲しい。」

東京の著名な田中社長さんからの突然のオファーに僕は舞い上がった。そして、僕はそのオファーを受けることにした。

 僕中澤は特許取得済みの特殊なスピーカーを製造するメーカーの社長だ。孫さんやホリエモンを目指し博多で起業してちょうど10年が過ぎ、上場を目指して日々奮闘中である。2012年夏にアメリカ進出も果たし、少しずつ実績も出来てきた。

2013年にはSilicon Valleyの有名なピッチコンテストで日本人企業初で優勝し、2014年夏には日本政府が行うクールジャパンのプレゼン全国大会で優勝するという快挙を成し遂げた。

僕は、ビジネスを次のステージに上げるため、元々東京と福岡のVC(ベンチャーキャピタル)から1億円の出資を受けることになっていたが、「今回の出資は保留にして頂き、次のフェーズまで待って欲しい」と丁重やにお断りした。

そして、僕は田中社長から、結果的に8千万円近くの金額を数回に分けて短期でお金を借りることになった。

資金を受ける前、僕自身は出資でなく融資ということや、返済期限が長期で無いことに違和感を覚えたので、僕の右腕であり公認会計士の柿本に尋ねた。

「短期返済契約だと一括で返せんリスクがあるけど、大丈夫やろうか?」

「短期なのは、『B/S(貸借対照表)上、長期貸付金だと銀行に対して見てくれが良くない』と田中社長んトコの顧問税理士が言っているだけなので、返せん時はジャンプさせてもらえば良いっちゃないと?」

と柿本は答えた。

融資をする田中社長はバックグランドがしっかりしている著名な社長なので、僕は1ミリも疑うことなく融資を受けることにした。

そして、2016年7月、悲劇が始まった。

その信じて疑わなかった田中社長に、僕は最初の返済期限である2016年7月に、一括で返済出来ないからもう一年返済期限を延ばして欲しいとお願いした。

その時は明確な返事くれなかったが、それから数日後、僕が大阪に出張していた時に、田中社長から信じられない一言を言われた。

「中澤社長、一括返済出来ないのだったら破産しなさい!」

僕は意味が分からなかった。

事業は着実に前に進んでいる。

大手企業と対等の共同開発や業務提携は出来たし、船舶業界での来年の受注も確定している。NHKでの全国ネット放送やアエラの特集記事、日経新聞など、やっと知名度も出てきて問合せも増えてきた。世界的大手ゲームソフトメーカーとの年末のコラボも決まったばかりだ。

僕は田中社長に必死でもう少しでブレイクできるので来年は返済できることを説明した。

そして、破産となれば全国の株主や代理店に迷惑がかかるので破産なんて絶対に出来ないことを訴えた。

しかし、田中社長の返事は変わらなかった。

「破産を勧めると違法かもしれないが、一括で返せないのなら君は破産しなさい」

当初僕にはなぜ破産を勧めるのは理解出来なかったが、弁護士に相談すると、日本には「債権者破産申立」という法律があり、大口の債権者は返済しない債務者に対して問答無用で破産させることが出来るらしい。

丁度7月決算の田中社長の会社では、僕の会社への貸付金を貸倒れ処理することで損金で落として節税しようとしているのか?

結局話は平行線のままで、2016年7月は僕にとって一生忘れることのない地獄の10ヶ月の幕開けとなった。